たちかわ創造舎プレ企画vol.1 トークイベント

トーク+ブック・パフォーマンス
「芸術 × スポーツ × サイエンス 多摩で僕らがめざすもの」トークイベント

司会 倉迫康史 たちかわ創造舎チーフ・ディレクター
ゲスト二戸康寛 東京ヴェントス代表
ゲスト恐竜くん 恐竜専門家
朗読村上哲也(Ort) 、あきやまかおる

2014年10月24日(金)|19:30 – 21:00
たましんRISURUホール B1展示室

イベント詳細

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プロローグ

2015年夏のオープンまでの1年間、プレ企画としてたちかわ創造舎のチーフ・ディレクターに就任した倉迫康史が、会いたい方をお招きしていろいろなお話を伺います。ゲストが薦める本の紹介&朗読もあり、舞台演出家でもある倉迫ならではのトークイベントです。初回はゲストに立川市に拠点をもつ、地域密着型サイクリングチーム 「東京ヴェントス」代表の二戸康寛さんと、恐竜専門家の恐竜くんを迎え、自分たちの活動や地域・社会に対するビジョンを語って頂きました。

司会進行のチーフ・マネージャーの陽茂弥より、たちかわ創造舎の成り立ちや、企画・運営を担うNPO法人アートネットワーク・ジャパン、NPO法人日本自転車環境整備機構を紹介。次に倉迫康史が、柱となる「インキュベーション・センター事業」「フィルムコミッション事業」「サイクル・ステーション事業」の各事業の説明を詳細に行い、また倉迫自身の演出作品などを紹介しました。来場された方々にたちかわ創造舎の全体像を掴んで頂いた後、ゲストのお二人を交えてトークイベントが始まりました。

ブック・パフォーマンス

倉迫:プレ企画はゲストと私による「トーク」と、ゲストが選んだ本を私の演出で俳優が朗読する「ブック・パフォーマンス」の二本立てで行います。まずは「ブック・パフォーマンス」からです。ゲストの方にそれぞれ一冊ずつ本を選んで頂きました。なぜそのようなことをするのかと言いますと、「本を選んでください」と依頼されますと、皆さんならどうしますか。今の自分が投影されたものが良いのか、自分の影響を受けたものか様々な思いで選ぶと思います。単に自己紹介するよりもその人自身が見えてくるのではないかということで、このフック・パフォーマンスを企画しました。
今日、読む本は一冊目が立川の地域密着型サイクリングチーム、東京ヴェントス代表の二戸康寛さんが選んだランス・アームストロング著の『ただマイヨ・ジョーヌのためでなく』。二冊目が恐竜専門家の恐竜くんが選んだ夢枕獏著の『陰陽師 太極ノ巻』です。なぜこの本を選んだのか、この後のトークではその本を選んだ理由もお聞きします。
それではまずブック・パフォーマンス、二つ合わせて25分程になります。じっくり耳を傾けてお楽しみください。

二戸康寛氏のセレクト本
『ただマイヨ・ジョーヌのためでなく』 ランス・アームスロラング
It’s Not About the Bike Lance Armstrong with Sally Jenkins

安次嶺佳子:訳  講談社文庫
第8章 「真の復活」より抜粋
朗読:村上哲也(Ort)

21歳の時、史上最年少で世界自転車選手権に優勝するなど、世界の一流自転車選手の道を順調に歩んでいたランスは、25歳の時に睾丸癌を発病。しかし苦しい闘病生活乗り越え、自転車レースの最高峰ツール・ド・フランスで個人総合優勝を果たし奇跡の復活を遂げ、前人未踏の7連覇を達成した。第8章「真の復活」では病後の葛藤、徐々にレースへと復活するための「癌からの再生の日々」が克明に描かれている。 

恐竜くんのセレクト本
『陰陽師 太極ノ巻』夢枕獏  文春文庫

「棗坊主」より抜粋
朗読:あきやまかおる

平安時代の陰陽師・安倍晴明の活躍を描いた伝奇小説。晴明が源博雅にさまざまな「ものの怪」について語る、一話完結方式で書かれている『陰陽師』シリーズの一編。叡山の杉の林の中のある寺にぼろぼろの衣を身に纏った40歳程と思われる一人の僧が上がり込んで来た。名を恵雲という。調べてみると50年前に行方不明になった僧だった。天界と地上の時の流れの不思議が語られている。

トーク ─ 書籍選択の理由と朗読の感想 ─

倉迫:それではここからクロス・トークに入って行きたいと思います。皆様、二戸さんと恐竜くんを拍手でお迎えください。ではお二人に朗読の感想を伺います。いかがでしたでしょうか。

二戸:この本は、20日間で3,000キロという世界一過酷なツール・ド・フランスのレースで癌を克服し7回優勝したアメリカの選手の自伝です。私が読んだのが約10年前でしたが、挫折を経験したその時期にこの本と遭遇して選手生活に復活できたことがあったためこの本を選びました。またこの選手がただ単に復活を果たしたということだけでなく、その復活の過程で心の支えとなった人たちとの人間関係がよくわかる本で、今日、感情の籠った朗読を聴いていて「うるっ」として、昔の私に重ね合わせ改めて感動しました。

恐竜くん:恐竜という科学のイメージから陰陽師とは意外と思われるかもしれませんが、敢えて、直接、恐竜と関係の無いこの本を選びました。この本の中の桜のシーンで安倍晴明は、散る花びら、移り変わる鳥などを見て、一つ一つの小さな身近なものを楽しむことで自然の理に思いをはせます。これが私が考えているサイエンスの本質ではないかと思います。大学生の時、恐竜の研究をしていたのですが、研究とは何だろう、サイエンスとは何だろうと考えていた時期、色々考えた結果、サイエンスと一番一致したのがこの桜のシーンだったのです。「花はきれいだ」とか「虫の声がいつの間にか変わったな」とか、「どうしてこういうことがあるのか」などと考えるのがサイエンスの本質ではないかと考えたのです。

倉迫:ありがとうございました。ふたりとも人生の岐路で出あった本を選んで頂いて、このブック・パフォーマンスを行った意義があったと思います。

トーク ─ プロジェクト・パートナーとの協力関係/①意義とそれぞれの活動 ─

倉迫:たちかわ創造舎は、カルチャー・ファクトリーと銘打ってアートネットワーク・ジャパン(ANJ)及び日本自転車環境整備機構(BEI)が協力し、チーフ・ディレクターの私が演劇というアートの世界を背にして企画運営していきますが、東京ヴェントスさんが自転車でありスポーツの世界を背に、恐竜くんが恐竜即ちサイエンスの世界を背にそれぞれジャンルの違う文化を担ってプロジェクト・パートナーとしてこの創造舎の活動を盛り上げていくことになりました。まずはお二人の活動をお話頂けますか。

二戸:多摩地区で活動するために立川市を拠点に地域密着型のサイクリングチームとして今年3月に立ち上げ、来年8月には創造舎に拠点を移します。サイクリングチームの運営形態にはメーカーがスポンサーとなったプロチーム、自転車関連メーカーが手がけるファクトリサーチチーム、サイクルショップや片山右京などがてがけるクラブチーム、個人のチームなどがありますが、我々はメーカーや企業からスポンサーを受けない地域に根ざした地域密着型のサイクリングチームです。多摩川のサイクリングロードに面していることと、多摩丘陵とか昭和記念公園とかサイクリストに必要なフィールドが豊かであり、都心サイクリストが多摩地域に行く際に必ず通過する多摩の中心的位置であることから立川を拠点にしました。我々のチームには二つの柱があります。一つは競輪場があり、自転車競技関連の強豪校を有する都市でもあるので自転車競技を盛り上げていくこと。二つ目は、立川市が自転車文化のまちを掲げていることもあり、楽しい自転車の乗り方を子どもたちに継承していく事業や地域のイベントへの参加、ジュニア・ユースクラブ設立など、自転車文化を多摩地域で根付かせることを目標にしています。これらの事業を推進する上で一番重要なことは地域との連携であり、地域のサポーター、支援してくれる企業、そして地域団体の皆様、この三者が一体となって自転車のまち、自転車文化を育てていこうという考えです。

恐竜くん:「恐竜くん」という名前で本格的に活動を始めたのは、カナダの留学から帰国した2009年頃です。この名称は「さかなくん」の二番煎じですが、恐竜博士だとか〇〇先生と呼ばれたくないと考え、呼びやすい名前として「さかなくん」の承認も得ています。恐竜展の企画だとかトークショー、イラスト教室、ワークショップなどに力をいれ、子どもだけでなく家族連れを対象にしたイベントを実施しています。私が恐竜に出会ったのは7歳のときで、上野の国立科学博物館の正面にあった10m位の大きな恐竜で、見た瞬間一目ぼれをし、そのままの勢いで今日まで来てしまったように思います。その後、1990年の幕張での恐竜博にカナダのアルバータから大きな恐竜たちが日本にやってきた経緯もあり、両親の話では8歳のときには「カナダのアルバータに行って恐竜の研究をする」と言っていたということでしたが、16歳のときにチャンスがきましてカナダの高校に留学することができ、最終的には恐竜の研究で世界一のアルバータ大学で古生物学を学ぶことになりました。アルバータという地域ですが、世界で一番恐竜が発掘される地層のある場所で有名で、子どもの頃に夢見た写真の場所で恐竜の勉強ができることになったのです。ここでの研究を進めていく中で、自分のやりたいことはこれでいいのか。これから先も研究者としてやっていくのか真剣に考えた時期がありました。そのときにヒントを与えてくれたのが北米の博物館の公開方法でした。この施設は、ガラス張りの展示方法ではなく、一歩進んでガラス窓が全開になっていて恐竜に触れることもでき、研究者と会話をすることもできる施設だったのです。また、展示案内の解説者は舞台の俳優であったり、訓練も受けてもいるということで、研究者も学芸員も積極的に客との交流をもつことを心がけている。つまり、子どもたちにどうやったら楽しみながら伝えられるのか、身振り手振りを交えながら恐竜の話をして楽しい空間を提供しているのです。恐竜というと子どものイメージが強く、そのコンテンツは3年サイクルとも言われていますが、この原因は「情報を提供する側に何か欠けているものがあるのではないか」という疑問に至り、大人の真剣な姿勢が求められているのではないかと考えたのです。そこから、研究者という道を究めるのではなく、恐竜の普及活動に進むということを決断したのです。

トーク ─ プロジェクト・パートナーとの協力関係/②めざすもの ─

倉迫:私がこのプロジェクト・パートナーの二人と一緒に事業展開をしていきたいと思ったのは「そこにいけばプロフェッショナルがいるという場所」をつくるという目的があります。たちかわ創造舎がアカデミックであったり、アートであったり、あるいはスポーツであったり、本物のプロフェッショナルと触れられる場所にしていくということです。東京ヴェントスさんが地域密着型を掲げている理由は何でしょうか。

二戸:地域密着型のサイクリングチームが誕生したのは5年程前で、発端は餃子で有名な宇都宮のチームではないかと思いますが、自転車の普及もあり、スポーツ自転車のブームもあり、自転車と車の共存もあって今や宇都宮=自転車の感があります。また、宇都宮は日本の自転車文化発祥の地といっても過言ではなくなっています。この実績を目の当たりにして全国でも地域密着型のサイクリングチームが誕生し、全国で10を超えるチーム数になっています。そしてどこのチームも観光資源をいかした活動をしており、立川は日本の首都にありながらサイクルフィールドに近いという環境をいかした活動をしていくため地域密着型にしています。

倉迫:たちかわ創造舎での事業展開はどのようにお考えでしょうか。

二戸:多摩川のサイクリングロードに隣接する立地条件をいかし、最近増加傾向にあるサイクリストを多摩川からたちかわ創造舎のサイクル・ステーションに引き込みたいというだけでなく、自転車とはこんなに楽しいものだということを発信していきたいと考えています。

倉迫:そこに行けば本物に触れられるサイクルテスターというようなこともやっていくと話もありますか。

二戸:最近ブームになっている「ロードレーサー」を手軽に楽しめる「レンタルサイクル」的な事業や、我々プロがエスコートして多摩の名所めぐりをする「サイクリングツアー」というような企画も考えています。

倉迫:サイクル・ステーションにサイクリストが喜んで寄ってもらえるようなカフェを開いたり施設をライトアップして空間構成をしていきたいとも考えていますが、単に立ち寄る場というだけでなく、そこにいけば何か特別な時間を過ごせる場にしていきたいと考えています。恐竜くんは、「チルドレンズ・ミュージアム」のような形で、子どもたちが直接いろいろなものに触れられる施設にしていきたいと考えているようですが、創造舎での希望はありますか。

恐竜くん:子どもたちが体験できるワークショップとかトークショーで子どもも大人も参加できる企画を考えています。これまで全国で私がプロデュースしてきた恐竜展を開催していきたい。従来型の展示ではなく、一歩踏み込んだ形の展示も考えていきたいと思っています。

倉迫:大人も学べるインキュベーション・センター事業も実施しますが、これらの運営費用の問題があります。文化で生活していけるか。演劇や創作をビジネスにつなげられるかどうかの問題もありますが。自転車の世界ではどうですか。

二戸:野球やサッカーの様なフィールドスポーツは集客力があり、興行収益というものが得られるが、自転車やマラソンなどの参加型スポーツは、それだけで生活できるかというと難しいです。

倉迫:文化の底上げのためにも廃校を利用して学びの場を提供することは非常によいことですが、それをビジネスにしていくためのスキームを創っていけるかどうかが次の課題になると考えます。

恐竜くん:ヒューストンの博物館の夏休み中のワークショップですが、子どもが興味を示すいろいろなテーマを企画しています。期間中、5回の教室で何百ドル、日本円で数万円の費用負担はざらです。博物館の職員にお聞きしたところ1億円位の収入となり、運営上の重要なものであるとの説明でした。ヒューストンというところは「NASA」のイメージとは真逆で、非常に保守的な場所でサイエンスには非常に風当たりが厳しいところなので、寄付はほとんど無くプロフェッショナルの意識でどうにかしていかなければならないとのことでした。

倉迫:今、ワークショップの話がありましたが、東京ヴェントスさんもワークショップを実施されていますね。

二戸:立川市内で小学校低学年をベースにして月1,2回実施しています。こういった活動を定例化して頻繁に開催できるようにしたいと考えています。

倉迫:いろいろなワークショップを見ていますと、講師、リーダーにはコミュニケーション力が問われていると思います。先ほど北米の博物館の方が演技を学ばれているとの話もありましたが、演技というのは突き詰めると会話であり、コミュニケーション力なんです。裁判員制度が始まったときに、弁護士が裁判員に自分が言っていることをわかってもらうためにはどうしたらよいのかということで演技指導を受けたとか、医者が患者を不安にさせないための話し方の指導を受けたとかの話を聞きますといかに重要なものかが理解できます。ワークショップを開くにしても体験教室にとどまらずにより高度なもの、プロフェッショナルなものを提供していくことが重要なことだと考えます。

最後に

倉迫:私がたちかわ創造舎のチーフ・ディレクターを受けた際に考えたことは、様々なジャンルの文化を繋いでいってみようではないかということです。そうすることによって高度な学びであるとか、地域密着型の必要性を考え実践していければと考えます。私たちは一つの拠点、この場所、このエリアで、これからどれだけ意識を変えていけるか、おそらく5年や10年以上、何十年もかかるかもしれない作業だとは思いますが、その第一歩をこの立川で踏み出したいと考えています。私たちは今、何かをやっていきたいと考えている人、何かを変えていくための場所がほしいと思っている人たちとの出会いを求めています。そのために、大先輩の方々やキャリアを積まれた方々のお知恵を拝借しながら、立川をよりよい街にしていきたいので、皆様のご協力を心からお願いしたいと思います。本日は長時間、お付き合いを頂きましてありがとうございました。