ディレクターメッセージ vol.21 2021年8月30日

1969年生。宮崎県出身。舞台演出家、放送作家。早稲田大学政経学部卒業後、演出家を志す。 劇団山の手事情社演出助手、劇団吟遊市民主宰を経て、現代舞台芸術ユニットOrtを始動。 2007年よりTheatre Ort主宰・演出を務め、 さらに劇団公演以外にもオペラやミュージカルの演出を手掛けている。 10年~14年3月までにしすがも創造舎アソシエイト・アーティストに就任。 構成・演出作品である「子どもに見せたい舞台」シリーズは毎年好評を博し、地域の文化活動に貢献した。 洗足学園音楽大学、桜美林大学講師。演劇やリーディング、コミュニケーションのワークショップも数多く行っている。
Theatre Ort にしすがも創造舎

たちかわ創造舎ディレクター倉迫康史Koji KURASAKO プロフィール

1969年生。宮崎県出身。舞台演出家、放送作家。早稲田大学政経学部卒業後、演出家を志す。 劇団山の手事情社演出助手、劇団吟遊市民主宰を経て、現代舞台芸術ユニットOrtを始動。 2007年よりTheatre Ort主宰・演出を務め、 さらに劇団公演以外にもオペラやミュージカルの演出を手掛けている。 10年~14年3月までにしすがも創造舎アソシエイト・アーティストに就任。 構成・演出作品である「子どもに見せたい舞台」シリーズは毎年好評を博し、地域の文化活動に貢献した。 洗足学園音楽大学、桜美林大学講師。演劇やリーディング、コミュニケーションのワークショップも数多く行っている。
Theatre Ort にしすがも創造舎

 本来ならこのテキストを書いている今日、8月26日は長野県大町市へと向かう日でした。立川市の姉妹都市である長野県大町市で開催される「北アルプス国際芸術祭」のパフォーマンス部門に、たちかわ創造舎として参加するためです。しかし、緊急事態宣言が8月22日から9月12日まで延びたことにより、その日までのパフォーマンスは中止になりました。この文章が発表される頃には、宣言がさらに延長され、他のプログラムも中止になっているかもしれません。

それにしても第二期たちかわ創造舎が始まった4月以降、すっかり緊急事態が日常となってしまいました。日常的に不安と不満が燻り続け、心も家計も疲弊し、精神的にも身体的にも病的な影響が出るような日々が続いています。長きにわたる戦時下というのはこんな感じだったのかもしれません。いえ、爆撃や銃声に怯える日々よりはずっとましだと、自分に言い聞かせるべきなのでしょうが、ウイルスという恐怖と、暗い未来という恐怖と、人心の分断という恐怖は、大きな影を私たちの社会や生活に落としています。

しかし、新型コロナウイルス前から「暗い未来」と「人心の分断」の予兆はあり、多くの人が漠然とした不安を抱えていたようにも思います。その不安がこの1年半で一気に顕在化し、「もしかしたらまずいことになるかも」という予感が現実になった、いえ、予感以上の現実が姿を現したと言えるのかもしれません。その現実を前に、私たちは立ちすくんでいる。

たちかわ創造舎の活動も停滞を余儀なくされています。緊急事態宣言中の舎内での主催イベントは舞台系も自転車系も全て中止、関係団体の利用も20時まで、一般の方の立ち入りは禁止、加えて利用者の皆さんには館内におけるマスク着用とアルコール消毒の徹底、利用人数の制限、連絡先の管理、トイレ利用の制限など、ご負担をかけています。状況に合わせて、一進一退の対応にならざるを得ないことは予測していましたが、それでも忸怩たる思いでいます。 ですが、幸いにも、関係団体の方々は、たちかわ創造舎の公共的な性格を理解して、じっと今は我慢と、協力をしてくれています。起きている事態と置かれている状況を正確に理解しようと努めながら、創造舎のスタッフと共に今はどうするべきなのかを考えてくれています。そうやって、立ちすくんでいる足を立ち向かう足へと変え、この現実を一歩一歩前に進もうとするしかありません。文化創造とは本来、そうした粘り強さを必要とします。年内にもまだいくつかイベントが控えていますが、それが実施されようが、中止になろうが、私たちが粘り強さを獲得する糧になると信じて、取り組んでいきます。

vol.20 「第二期の始まりにあたって」(2021.4.1)

 試練の2020年度が終わりました。皆さんにとっても、多くの困難を乗り越えた一年となったことと思います。そうして迎えたこの4月は、たちかわ創造舎にとって単なる新しい年度の始まりではなく、もっと大きな始まりの意味を持ちます。2021年3月31日をもって、たちかわ創造舎は第一期の5年半の活動を終え、4月1日から第二期の活動をスタートさせました。これから5年間、2026年3月まで旧多摩川小学校は「たちかわ創造舎」としてNPO法人アートネットワーク・ジャパンが管理・運営をし、引き続き活用をしていきます。僕もディレクター業務を継続することになりました。
 思い返せば、僕が立川市と関わるきっかけになったのは、9年前の立川市による「旧多摩川小学校有効活用事業の事業者募集」です。それからずっと、「廃校を文化創造施設としてよみがえらせ、立川市および多摩エリアの地域文化の活性化に寄与する」という目的を掲げ、ひた走ってきました。総仕上げとなるはずの第一期の最後の年度に、新型コロナウイルスの流行によって思うように事業を展開することができず、忸怩たる思いでいましたが、幸いにも市民の皆様や地域住民の方々の支持により、事業を継続することができるようになり、心から感謝しております。皆さんからの応援の声に報いるためにも、第一期の成果と反省を糧に、第二期の事業に全力で取り組んでまいります。

 第一期の事業の柱であった「インキュベーション・センター」「フィルムコミッション」「サイクル・ステーション」「コミュニティ・デザイン」の4つの事業は、少しずつ形を変えながら第二期にも引き継がれます。
 インキュベーション・センター事業の中心であったシェア・オフィス・メンバーは卒業となりましたが、関係性が無くなるわけではなく、それぞれの活動形態に合わせた事業協力やスペース提供といった支援を今後も行っていきます。たちかわ創造舎を中心としたゆるやかな文化創造ネットワークとして連帯します。  多くのドラマ、映画、CM、MVなどの撮影利用によって、たちかわ創造舎の基盤を支えるフィルムコミッション事業は、さらに撮影に使いやすい施設として利用を拡充するために、1階と4階を中心に改装を行っていきます。
サイクルステーション事業は、ロングライドにチャレンジする「たまライド」、世界大会にも出場する「たちかわサイクルサッカー」、イギリス製の折りたたみ自転車の愛好者が集う「Brompton in Palace」など、たちかわ創造舎を拠点とする活動を、引き続き支援していきます。
 そして、演劇やダンスといった舞台芸術を活かした“まちづくり”を進めるコミュニティ・デザイン事業は、「ほうかごシアター」と「あしながサポート」をリニューアルし、より多くの人や子どもたちが創造舎内で芸術文化を体験できる機会を増やすほか、近隣のさまざまな団体や施設と連携することで、立川市および多摩エリアのいろいろな場所での舞台芸術体験を提供していきます。

たちかわ創造舎ディレクターとしての僕の願いは、公共の財産である元学校という場所を拠点に、人々が世代や出自、趣味嗜好を越えて、「公を共に生きる」ための知恵を、芸術やスポーツといった文化体験を通して学ぶことにあります。それは、長引く不況、災害への不安、社会への不満などから生じる、心のヒビやキズを癒す処方でもあります。そうした機会を創造する場として、たちかわ創造舎は地域や市民の皆さんとともに次の5年間を走り続けたいと思います。今後とも、応援と叱咤激励をよろしくお願いします。

vol.19 「2019年度末にあたり」(2020.3.31)

チーフ・ディレクターの倉迫です。

疫病の世界的な拡大と深刻化というかつてない事態の中、2019年度が終わろうとしています。
たちかわ創造舎は立川市と協議しまして、現在、一般の方の利用を制限する休館中です。
敷地内のA棟は各事業の事業者が入居しているため、時間を短縮して関係者の利用を可能にしていますが、B棟の「たまがわ・みらいパーク」は運営事務所のみのオープンとなっています。
この対応は4月12日まで続きます。今後、延長する可能性が無いとは言えません。
地域住民の方の憩いの場であり、子どもたちの居場所であり、芸術やスポーツという文化創造の場であった、たちかわ創造舎が、今このような時期に活用できないことに忸怩たる想いがあります。
新型コロナウイルス感染を広げないという強い目的のためと頭では承知していますが、悔しく悲しく、何より申し訳ないです。
このような状態になって、あらためて私たちは市民の皆さんとのやり取りや、子どもたちの笑顔、声に励まされて生きていたのだと、痛感しています。

私たちは、1月2月に特別支援学校で「よみしばい」の上演を依頼を受けて、行いました。
この学校で演劇の上演を行うのは初めてとのことで、担当の先生方も私たちも笑顔の裏には一抹の不安を抱えながら、1月は中学生たちの前で、2月半ばには小学生たちの前で上演を行いました。
上演前、特に2月はかつてない緊張に俳優たちは包まれ、上演中は客席の子どもたちの反応を全身で受け止めながら、必死で演技を届けてくれました。
その結果、舞台と客席が呼応する演劇の場が学校の体育館に確かに出現しました。
「子どもたちがこんな反応をするところ、見たことが無い」と先生方にも言っていただけました。
私は、退場していく子どもたちの、はしゃいだ笑顔、照れた笑顔を見ながら、「私たちはやれる、演劇をもっと多くの人たちに届けられる」という高揚感を持ちました。
それから一ヶ月半、私は今、何もできない状態にいます。

もちろん、そうした状況の中でも、私たちに何かやれることは無いか、届けられるものは無いかを模索し、創造舎のスタッフと相談して、動画配信を行ったりはしています。
けれどやはり、市民の皆さんや子どもたちに直接会って、同じ時間を共有する歓びは味わえません。
私たちはその日々を早く取り戻せることを願いながら、来年度の事業の準備と施設維持のための管理に日々励んでいます。
「芸術文化を創造し、できるだけ多くの人に届ける」「芸術文化を通して市民の生活を応援する」という、私たちの使命は2020年度も変わりません。
たちかわ創造舎という【場】を守り続けますので、どうか新年度も変わらぬ応援とご期待をよろしくお願いします。

vol.18 「ご協力のお願い」(2019.12.11)

日頃、創造舎の活動を応援いただき、ありがとうございます。今回、皆さまに、さらに応援、ご協力をお願いしたいことがございます。
私が台本・演出を担当、ほうかごシアターの出演俳優が多数参加する、立川シアタープロジェクトpresents子どもとおとながいっしょに楽しむ舞台vol.4『イーハトーヴ童話集〜ケンジのネコとトモダチに〜』が、12月21日(土),22日(日)に開催されます。毎年1500人前後の方にご覧いただいているこのシリーズですが、今年度は、消費税が上がったせいか、はたまた時期がクリスマスから少し遠いせいか、予約の伸びが例年より鈍いのが現状です。
過去作品の「アラビアンナイト」や「西遊記」、「ドリトル先生と動物たち、月へゆく」より、対象が高学年向けに感じていらっしゃるからかもしれませんが、宮沢賢治の作品の中から子どもたちに人気の『どんぐりと山猫』『注文の多い料理店』を中心に、いくつかの童話で構成して、低学年のお子さまにも楽しめる物語となっています。また、生演奏のきらめくような音楽や、俳優たちのコミカルだったり、かわいかったり、びっくりするような身体表現をふんだんに取り入れることで、年少のお子さまたちが飽きずに見られるような工夫もしております。
上演時間は、子どもたちの集中力や、途中でトイレに行きたくなったり、お腹が空いたりすることを考慮して、一幕約30分、休憩15分、二幕約30分という構成になっています。上演中の出入りも自由です。
家族揃って劇場で観劇する機会というのは、なかなかないかと思います。「子どもとおとながいっしょに楽しむ」ということを実現するために“親しみやすいけれど深い演劇体験”を創造するこの企画を、ぜひ、ご友人やお仲間に口コミやSNSでお知らせいただけますと幸いです。「チラシを配るから送って」という方がいらっしゃいましたら、すぐに対応いたしますので、お電話か、info@tachikawa-sozosha.jp へお知らせください。ちなみに、チラシのネコの名前は「風野猫又三郎」です。もちろん本編にも出演します。
誠に勝手なお願いではありますが、こうした企画を続けるためにも、皆さまのお力添えをいただきますと、幸いです。よろしくお願いいたします。

『イーハトーヴ童話集~ケンジのネコとトモダチに~』公演詳細はこちら
チケットのご購入(財団オンラインチケット)はこちら

vol.17 「どうか勇気をください」(2019.10.30)

 皆様、10月10日発行の「広報たちかわ」をご覧いただけましたでしょうか。
立川シアタープロジェクトが昨年12月に、たましんRISURUホールで上演しました、子どもとおとながいっしょに楽しむ舞台vol.3『ドリトル先生と動物たち、月へゆく』の舞台写真が1面に大きく掲載され、2面では今年上演されるvol.4『イーハトーヴ童話集〜ケンジのネコとトモダチに〜』、たましんRISURUホールのギャラリーやホワイエ、展示室を劇場にする「あちこちシアター」、小学3年生から中学生の子どもたちが演劇の創作をする「子ども未来エンゲキ部」の紹介がされていました。立川シアタープロジェクトがスタートして4年目、感慨深いものがあります。
 立川シアタープロジェクトは「演劇で立川の文化芸術を活性化する」ことを目的に、立川市、立川市地域文化振興財団、たちかわ創造舎で始めました。年々、市民の皆様の認知度も上がり、演劇が根付きつつあるとの手ごたえを得ています。しかし、同時にこれから少し難しい段階にも入っていくぞと気を引き締めてもいます。何を難しいと考えているかを、率直に記してみようと思います。

 演劇をはじめとする文化芸術に携わる人間(アーティストに限らず)は、市民の生活の中に文化芸術はあって当たり前、豊かな方がいいと思っていることがほとんどです。僕もそう思っています。しかし、文化芸術を「近しいもの」と実感したことのない方は、無くても困らない、余裕があればあってもいいものと考えても不思議はないですし、また、文化芸術に親しみを持っている方でも、家計や家事、勉強、娯楽よりも優先するかどうかは意見が分かれることと思います。
 自身の実感から言えば「文化芸術は人々の生活に無くてはならないもの。ある面では、もっとも優先すべきこと」です。特に、現在のような未来の情勢や災害への不安が高まっている時期にこそ、人々の心のために必要と考えますが、それは僕が自分の人生経験を通して得ることができた実感であり、他の方は違う実感を持っていて当然です。その「隔たり」を受け入れていくことから、「文化芸術の活性化」は始まります。

 文化芸術に対する意識の隔たりを「断絶」という強い言葉で現す人もいますが、それだと何だかもう互いに近づく余地はないという感じがしますので、「隔たり」という地続きの歩み寄れる感じの言葉を使います。そして、歩み寄るためにどうすればいいのかを考えると、ただ、「こっち来て!」「絶対楽しいから!」と言っても、なんかちょっとキャッチセールスみたいで、近寄りがたいです。また、「一度、作品見て!」「見ればわかるから!」と言って、なんとか見てもらえても、付き合いを果たしただけとか、やっぱりどう見ればいいのかよくわかんなかったとかと思われては、逆効果です。
 歩み寄るための声かけをどうしたらいいのか。こちらは出て行く、あちらからは近寄る、そして出会う。出会って初めて対話は生まれる。対話をしたいのなら、歩み寄るしかないし、歩み寄るには自分から出て行って声をかけるしかない。じゃあ、どんなふうに声をかけるといいのかに工夫の余地、知恵の使いがいがあります。

 「文化芸術に触れよう」「演劇を観よう」というジャンルへの興味を呼びかけることも、「この作品や催しを観に来てほしい」と呼びかけることも大事ですが、その呼びかけをアーティストや文化芸術に携わる、作品や催しの奥にいる人(SNSなどで言う「中の人」ですね)が、不特定多数ではなく具体的な対象に向けて、自分の言葉で声をかけていくこと。声を上げるのではなく、届く声で自分から生まれた言葉をかけていくこと。その勇気を持つことがアーティストや文化芸術の「中の人」に必要だと、考えています。
 文化芸術の世界では長く、「人物」ではなくあくまで「作品」を評価するというのが原則でした。作品至上主義は業界内のフェアネス(公正さ)を保つためには大事です。しかし、それは「作品」の背景にある歴史やジャンルの現在進行形、作者の問題意識の変遷などを鑑賞者が知っているからこそ可能な評価でした。また、そこにジャンルに対する愛情や誇りを共有しているという前提があってこそです。業界内部の評価ではなく、文化芸術と隔たりのある市民から興味関心、そして最終的には愛情を持ってもらうには「作品が全てを語る」という姿勢だけでは足りなくなっています。
 しかし、「中の人」の勇気が重要だと言っても、自分の言葉で具体的な誰かに声をかけるのは、目に見えない大きなものにシュプレヒコールを上げたりするのとは、また違った怖さがあります。ましてや、自分と相手の間に隔たりがあるとわかっている時は尚更です。冒頭に書いた「これから少し難しい段階にも入っていく」というのは、これです。不特定多数への「発信」や「告知」の段階から、隔たりのある、けれど歩み寄れる可能性のある具体的な誰かに、自分の言葉で語りかける段階へと、私たちは入ったと感じています。

 12月に上演する『イーハトーヴ童話集』を始めとする今後の立川シアタープロジェクトの事業や、たちかわ創造舎のコミュニティ・デザイン事業を通して、新たな段階を実践していくことになります。日頃の皆様からの応援や激励が、私たちの勇気の源です。古い歌の歌詞にありましたね、「どうか、勇気をください」、そんな気持ちで取り組んでいきます。

vol.16 「語り合い、交じり合い、学び合いを深める」(2019.7.22)

 先日、昨年度までの3年間、たちかわ創造舎の活動を支援してくれたセゾン文化財団の助成事業報告会で、この3年間の演劇を通じたコミュニティ・デザイン事業について報告してきました。報告、と言っても成功報告ではありません。私たちはまだ活動の途上にあり、挑戦は継続しています。挑戦の途中報告として、その席でお話ししたことを交えながら、たちかわ創造舎の新たな挑戦について書きたいと思います。

 報告会のテーマは「地域課題に対して演劇ができること-アーティストと行政の連携による取組みの報告」でした。この3年間の演劇を通じたコミュニティ・デザイン事業で私が学んだことは、市町村の地域課題は社会問題でなく生活問題だということです。
 「ゴミの分別」の問題を例にとってみましょう。社会的に見れば「温暖化対策」や「リサイクル、リユース」などのために分別が大事なことはわかります。では、そうした分別のために2DKの自宅の台所にいくつもゴミ箱を置くスペースがあるのか、というのは生活の問題です。こうした生活上の障害をどう取り除くかという具体的な視点が、地域課題に向きあうには重要だということを学びました。

 今、私たちが向きあっている主な地域課題は「子どもたちの文化体験の格差を無くす」「地域住民が芸術文化を通して交流する」の二点です。芸術文化体験を通して、他者への想像力や、価値観の多様性の受容、人間の可能性への希望を育み、また、そうした場(環境、機会)が身近にあることにより、自分の住む地域への親しみや境遇への誇りを持つことを目指しています。
 では、そうした課題を解決するために、どんな生活上の障害があり、どう取り除いていけばいいのか、それを私たちは考えなければいけません。そのために私たちは、市民の皆さんの声をもっと聴きたいと思いました。具体的には、「ほうかごシアター」を通じて皆さんと語り合う機会を持てるようにしました。

 7月27日(土)10:00~11:00に「ほうかごシアター ファン・ミーティング」を開催します。皆さんの生活の中で「ほうかごシアターがもっとこうだったらいいのに」や「こういうところでも上演してみては」など、感じてらっしゃることをお茶でも飲みながら聞かせてください。僕だけでなく、出演俳優も参加しますので、ぜひ俳優とお話してみたかったという方の参加もお待ちしています。途中からの参加や退場も可能です。予約不要ですので、直接、たちかわ創造舎のA棟3-3教室にお越しください。エレベーターあります。

 たちかわ創造舎は「共に学ぶ・創る・発信するファクトリー」としてスタートしました。今後はさらに「共に語り合い、交じり合い、学び合い」を深めていくことで、芸術文化を通して地域における「支え合い」を実現していきたいと考えています。
 まずはお気軽に、語り合い、交じり合いに来てください。お待ちしています。

vol.15 「立川市文化芸術のまちづくり条例の前文を知っていますか」(2019.5.8)

昨年度の終わりに「立川市自治会等を応援する条例」が施行されました。この条例、まだご覧になっていない方はぜひ読んでいただきたいのですが、時間のない方は前文だけでも読んでみてください。市の現状認識と問題意識が端的にまとめられています。また、「第2条 用語の定義」の中で、「地域コミュニティ」を「市内の区域内における市民相互のつながりを基礎とする地域社会をいう」と定義されており、条例全体が地域コミュニティの活性化のための努力目標になっていると感じました。
さて、このように条例は、市の地域への課題の取り組みと目標が言語化されている重要な指針と言えます。私が立川市に関わるようになってから、創造舎立ち上げのための準備期間を合わせると5年が過ぎました(実はその前に柴崎町に2003年から2005年にかけて住んでいましたが、当時は都心で働き、寝に帰っているだけでした)。5年前、初めて「立川市文化芸術のまちづくり条例」を読んだ時は驚きました。その前文の一部を引用します(下線は筆者)。

私たちは、文化を人間の創造的な営みとその成果ととらえ、文化の概念を芸術活動はもとより、経済活動を含むあらゆる生活の領域に関わるものとして幅広く考えるとともに、文化が生活に潤いと豊かさをもたらし、地域社会の健全な発展にかけがえのないものであることを認識します。
私たちは、市民ひとりひとりが文化的な環境を享受し、幸福を求める権利を有するとともに、自らが文化の創造と発展の担い手として主体的に行動する役割を有していることを確認します。

 立川市文化芸術のまちづくり条例が制定されたのは2004年12月。2001年12月に、国の文化芸術振興基本法が施行され、文化や芸術は「全ての人々の幸福に関わる公益」とされましたが、その3年後にはもう、このような条例が立川市では制定されていたのです。条例の前文に掲げられた「認識」と「確認」は、これから立川市で文化芸術活動の拠点形成を行う身に、大きな希望と勇気をくれました。
 さらに特筆すべきは、前文後段のこの一文です。「交流と連携を基調に文化とやさしさのあるまちづくりを推進する」。「文化」と「やさしさ」を並列させたのは、慧眼というほかないです。国の文化芸術振興基本法は、2017年に文化芸術基本法となり、「国民が年齢、障害の有無、経済的状況又は居住する地域にかかわらず等しく文化権を保障」「観光、まちづくり、国際交流、福祉、教育、産業その他の各関連分野における施策との有機的連携」「文化芸術によって様々な政策課題を解決して人々の幸福を実現」という内容が盛り込まれました。まさに「交流と連携を基調に文化とやさしさのあるまちづくり」を、立川市はすでに14年前に目標として掲げていたのです。

 5年が過ぎ、たちかわ創造舎がオープンして4年目の今年、この条例を読み直して、僕は再び感銘を受けました。たちかわ創造舎は今年度から、「たちかわ創造舎2.0」とでもいうような新たなフェイズに入っていきます。その内容は今後、お知らせしていきますが、僕らの目指す方向は「文化とやさしさのあるまちづくり」を文化芸術の専門家と他の分野の専門家の協働、そして市民の皆さんの参加による支え合いによって推進していくことにあります。その方向に向けて背中を押されたような気がして、立川市文化芸術のまちづくり条例を、あらためてご紹介したいと思いました。その上で、次回からのディレクターメッセージでは、たちかわ創造舎の「コミュニティ・デザイン事業」が行う、まちづくりのビジョンをご紹介していきます。

vol.14 「演劇を通じた場作り」の仲間たち(2019.1.24)

2019年もあっと言う間に三週間あまりが過ぎました。大変遅れましたが、本年もよろしくお願いします。

昨秋から私は、文化庁による「平成30年度文化芸術による子供の育成事業-コミュニケーション能力向上事業-」のコーディネーターとして、立川市内の6つの小学校と事業を進めています。小学4年生を対象に演劇を活かしたコミュニケーションのワークショップを90分×3日行い、今年度で6校、来年度と再来年度に6校ずつ行うことができれば、3年間に立川市内の小学校18校全てで実施することになります。3年間での全校ワークショップの実施が継続できれば、立川市の児童生徒のコミュニケーション能力は今後、劇的に変わっていくでしょう。

ワークショップでは、演劇の創作を通して「想像する力・対話する力・協働する力」へ集中的にアクセスすることで、コミュニケーションへの自覚やコントロールへの気づきを促すことを目的にしています。もちろん、そのためには学校や教員の方にこの事業の目的を理解していただき、パートナーシップを築いていくことが重要です。“演劇を通じた場”を作ることで、違うジャンルの専門家同士が共に知恵を出しあい、工夫しあうことで、子どもたちや市民の方々の生きる環境を整えていくことに、今年も尽力していきます。ぜひ皆さんのお力をお貸しください。

さて、昨年末は、たちかわ創造舎の演劇系のシェア・オフィス・メンバーの活躍が目覚ましかったです。風煉ダンスの音楽劇『まつろわぬ民2018』は東京・三鷹~山形・酒田~青森・八戸をツアー。地元紙に多く掲載されるなど、大きな反響を呼びました。すこやかクラブは若手劇団の登竜門である王子小劇場主催の佐藤佐吉賞で最優秀演出家賞を受賞。さらに日本演出者協会による若手演出家コンクールで「優秀賞」を受賞、3月の最終審査での最優秀賞受賞が期待されています。鮭スペアレは12月に上演した『マクベス』が今までで最も評価が高く、2月にはTPAM(国際舞台芸術ミーティング in 横浜)フリンジに参加、海外から招聘の声がかかるかもしれません。また、鮭スペアレの主宰は高校演劇にも深くコミットしており、12月は「八王子学生演劇祭」をサポート、1月からは「中高生と創るシェイクスピア2019」という、劇団を挙げての長期ワークショップがスタートしています。

演劇系のシェア・オフィス・メンバーは、単に作品を上演するだけでなく地域や社会に演劇を通じて発信するという志を持っている劇団主宰を、私とチーフ・マネージャーで選抜しました。今、その目論見は花開き、インキュベーションセンター事業はメンバー同士が良い影響を与えあいながら、私たちの想定以上の成果を上げつつあります。彼らは上に書いた“演劇を通じた場”作りを強く推進してくれる仲間であり、大変心強く感じています。

たちかわ創造舎では今後、1/26(土)ほうかごシアター「アラジンと魔法のランプ」を上演、3月に演劇の手法を活かした声を出して読む技術をレクチャーする「子どもに聴かせる音読講座」を開催します。今年も、私たちの“演劇を通して創る場”に、ぜひご参加ください。

vol.13 たちかわ創造舎3年目を迎えてのご挨拶

不安になるほどの暑い夏が過ぎ、気づけば9月27日をもって、たちかわ創造舎はオープンから丸3年を迎えました。お蔭さまで、月日を重ねるごとに創造舎の認知度は上がり、活動範囲も広がってきました。と同時に3年間の経験によって何が効果的なのか、少しずつわかってきました。4年目はこれまでの経験をもとに、活動をブラッシュアップしていきたいと考えています。

今年度の上半期は、「ほうかごシアター」の土曜開催や「タンデム自転車の安全な乗り方教室」の開催、立川シアタープロジェクトの新企画「あちこちシアター」の企画製作などが、新しいチャレンジとして始まりました。参加者の皆さんからは好意的な反応が多く、下半期も引き続き開催していきます。
また、コミュニティ・デザイン事業の一つである、演劇的手法を活かした「コミュニケ―ション・スクール」では、立川青年会議所の依頼でチームビルディングのワークショップや、昨年度に引き続いて立川市教育委員会の新任教員研修でコミュニケーション教育のワークショップを実施するなど、ビジネス向けの講座を充実させていっています。ご興味のある方は、ご相談ください。

そして、今年もクリスマスシーズンの12/21(金),22日(土),23(日)に、立川シアタープロジェクトがファミリーに向けた「子どもとおとながいっしょに楽しむ舞台」の第3回公演として、たましんRISURUホール・大ホールで『ドリトル先生と動物たち、月へゆく』を上演します。たちかわ創造舎は企画製作を、僕が台本と演出を担当します。チケット予約も9/27より始まっています。今年は全席指定ですので(料金は変わりません!)、お席の確保はお早目に。
 動物の言葉を話せるお医者さんのドリトル先生の物語は、井伏鱒二訳による岩波書店のシリーズが有名ですが、今作は角川つばさ文庫の河合祥一郎訳による『ドリトル先生と月からの使い』『ドリトル先生の月旅行』を原作に、レトロ・ファンタジー音楽劇と名付けて、どこか懐かしく、なんだか不思議な味わいの作品をお届けします。
 音楽・演奏は『アラビアンナイト』『西遊記』に続いて打楽器奏者の古川玄一郎さん。ムービング・ディレクションには、僕がいつかご一緒したいと願っていた世界で活躍するパフォーマンス集団to R mansionの上ノ空はなびさんをお迎えします。

 4年目からのたちかわ創造舎の事業は単なる発信の拡大ではなく、多世代に向けての重層的なアプローチを行っていくことを考えています。同時に、私たちが行政や公共施設、リーディングカンパニーとどのように協働しているのか、そのプロセスを言語化し、伝達、共有していくことの必要性も感じています。重層的かつ複合的かつ同時多発的なムーブメントを起こしていくことを夢見て、4年目以降、そして2018年度の下半期もがんばってまいります。

vol.12 たちかわ創造舎のファンを増やしていくには

 『西遊記』や『三国志』と並ぶ中国の人気小説『水滸伝』にでてくる、108名の豪傑が集う「梁山泊」(りょうざんぱく)という場所に、昔から憧れていました。志や野心、才能に優れた強者たちが集まってくる拠点としての梁山泊、何かを変えてくれそうな、世の中を面白くしてくれそうな、独特の個性を持った人間たちが活動している場所。手前味噌ですが、オープンしてから二年半が過ぎ、たちかわ創造舎はアーティストやクリエイターが集う「梁山泊」になりつつあります。

 一例として、昨年度の終わりに、「ファーレ立川アート ミュージアムデー 2018春」という立川市主催のイベントが開催されました。立川市の文化芸術のシンボルであり、最大の財産であるファーレ立川アートを、もっと市民の人たちに知ってもらいたいというイベントの中で、たちかわ創造舎は市から依頼されて、30分の野外劇『2100年のファーレ』を製作、立川髙島屋北側の赤い植木鉢作品があるエリアで上演しました。
 台本・演出は私が担当し、出演・スタッフに、たちかわ創造舎のプロジェクト・パートナーであるTheatre Ort、シェア・オフィス・メンバーである風煉ダンス、すこやかクラブの関係者が名を連ねました。野外劇とあわせて、女性総合センター・アイム 1Fギャラリーで開催した水性チョーク・キットパスを使った「らくがきワークショップ」では、シェア・オフィス・メンバーのChalk2Uが企画・進行を担当、たちかわ創造舎のカフェを共に創った家具工房kitoriが内装を担当しました。
 野外劇の観客は11:00の回が115名、15:40の回は会場周辺に人垣でき、なんと247名にふくれあがりました。これには、生声・生演奏の俳優たちも嬉しい悲鳴を上げていました。終演後には拍手喝采、アンケートにも熱烈な感想が並び、たちかわ創造舎の二年半が実を結んだように感じ、胸が熱くなりました。ほんの一部ですが、ご紹介させてください。

「アートの街の世界観が見えて、発声や踊りもクオリティ高く、素敵な演劇でした。アートの力や可能性に挑戦していてワクワクしました」(横浜市・20代)「アート作品とキャラクターがうまく合わさっていて、おもしろかったです。何もないところから劇場がうまれる演出もみていてたのしかったです」(国立市・30代)「この演劇を観たくて来ました。楽しく、ちょっと切ないストーリーでとても良かったです。ありがとうございました」(立川市・40代)「昨年10月に引越して来ました。素敵な街に越して来られてとても喜んでいます。今回の企画をずーっと続けてくださいね」(立川市・60代)「ツライ事があっておちこんでいたのですが、今日とても笑顔になれました」。(立川市・40代)「街中の演劇公演が定着しますように!」(国立市・60代)「げきおもしろかった!!!!」(所沢市・6才)

 今回の企画は、ファーレ立川アートというすでに歴史のあるアートに、たちかわ創造舎が関わることで、新たな発見や価値を生み出すことができました。それは、たちかわ創造舎に集うアーティストやクリエイターたちの力です。創造舎には、街を面白くしたり、日常とちょっと違う風景を生んだりすることができる人々が集っています。たちかわ創造舎は立川の、多摩の「梁山泊」となりつつあります。

 2018年度、梁山泊の人々の活動はさらにさかんになっていきます。シェア・オフィス・メンバーの風煉ダンスは5月に立川駅南口商店街や立川市子ども未来センターを舞台にした野外劇『MICHI』を上演します。すこやかクラブはその振付を担当しています。鮭スペアレは昨年度から「シェイクスピア×多摩の高校生×中込遊里 演劇ワークショップ」をスタート、たましんRISURUホール・展示室で5月6日に成果発表を行います。Chalk2Uは他のシェア・オフィス・メンバーのチラシなどのビジュアル・ワークを担当するほか、6月3日に立川市子ども未来センターで開催される「環境フェア」でワークショップを行います。
 地域密着の活動をしながら、風煉ダンスは東北ツアーを企画したり、すこやかクラブは演劇界の若手の登竜門である王子小劇場・佐藤佐吉演劇祭に参加したり、鮭スペアレはTPAM(国際舞台芸術ミーティング in 横浜)に参加し、海外の演劇人から高く評価されたりと、演劇界においてそれぞれが独特の存在感を発揮していることも、特筆しておきます。もちろん、それはメンバーの努力の成果に他なりませんが、たちかわ創造舎という環境や立川市の文化状況が後押ししているところも大きいと思います。
 たちかわ創造舎本体の活動としては、立川シアタープロジェクトの発信事業として、国立市・くにたち市民芸術小ホールや武蔵野市・吉祥寺シアターとの協働を、昨年度より規模を大きくして展開していきます。そして今年度もクリスマスシーズンには「子どもとおとながいっしょに楽しむ舞台vol.3」を、たましんRISURUホール・大ホールで上演します。それぞれ詳細の発表を楽しみにしていてください。

 「芸術文化を市民に親しんでもらう、良質な作品に触れる機会を増やす」というのは分野を問わない課題ですが、そのためには地域に根差したプロフェッショナルなアーティストやクリエイターがいること、そして創作環境や発表の機会が整っていることが重要です。たちかわ創造舎の独自性は、「公」と「民」の双方と連携を取りながら、アーティストの創作と発信を後押しし、市民の皆さんが地域の中で芸術文化に触れられる機会をいろいろなやり方で提供していることです。
 実は、たちかわ創造舎のこうしたあり方は「サイクルスポーツ」というスポーツ文化の面でも発揮されています。プロのロードレース・チームの東京ヴェントスや、たちかわサイクルサッカークラブの拠点として、アスリートの活動を支援し、市民の皆さんにサイクルスポーツに親しんでもらう機会を提供しています。

 民間のNPO法人が運営している施設でありながら、地域密着と活動支援と人材育成を行えている稀有な施設が「たちかわ創造舎」です。今年度の目標は「たちかわ創造舎のファンです!」と言ってくれる方を増やすことです。街や生活を楽しくするために、頭を使い、汗をかいていきます。ぜひとも、たちかわ創造舎に集う人々の2018年度の活動にご注目ください。

vol.11 内的な時間を豊かにするために

 気づけば12月、2017年もあと少しですね。私事で恐縮ですが、先月、48歳となり、よく言われることですが、歳を重ねると共に、年々、歳月が過ぎていくのを早く感じております。

 時間の流れには二種類あって、簡単に言うと、外的な時間の流れと内的な時間の流れがあるそうです。外的な時間の流れとは1年は365日、1日は24時間、1時間は60分、1分は60秒という「尺度」が決まった時間の流れで、私たちの生活はこの時間の流れに縛られていると言えます。
 内的な時間の流れとは、楽しいといつのまにか時間がたっているとか、つまらないと時がたつのを遅く感じるなど、個人の「感覚」によって左右する時間の流れで、外的な時間の流れとは別に、私たち一人一人が自由に実感する時間のことです。
 普段の私たちの生活は、外的な時間の流れに、大げさに言うと、支配されていると言っても過言ではないでしょう。外的な時間による拘束に身を置きながら、内的な時間の流れを個々に積み重ねながら、私たちは生きています。
 実は、人間の精神に大きな影響を及ぼすのは、内的な時間の流れと言われています。なぜ人によって老化の速度が違うのか。それはもちろん、遺伝子的なことや、日頃のケアもあるでしょうが、どのような内的な時間の流れを積み重ねてきたかで変わります。その意味で、個人個人の時間とは絶対的なものではなく相対的なものであり、平等ではなく差異のあるものだと言えます。
 私たちが社会生活を営むにあたって、外的な時間の流れに合わせることは大事ですが、私たちの精神生活にとって、内的な時間の流れを感じる機会を多く持つことは、私たちが人生の「自由」を感じることにおいて大事だと、私は考えています。

 なぜ、こんなことを書いたかというと、子どもの頃に比べて時間の流れが速く感じるようになったのは、自分の内的な時間がやせ細ってきているからかもしれないと思うからです。子ども達は同じ1年という外的な時間の流れの中で、大人達よりも豊かな内的な時間を過ごしているだろうことは想像に難くありません。子ども達にとっては日々、世界は小さいけれど新鮮な刺激や感動に満ちています(満ちていて欲しい!)。しかし、大人になると、なかなか…、ですよね。だから大人はレジャーを求めます。
 レジャーというのは本来、外的な時間の流れからいったん離脱して、内的な時間の流れに身を任せるためのものです。自然観察に行くのもいいですし、異文化に触れるのもいいですし、非日常的な料理を食べるのもいい。そこに私は「劇場や美術館に行く」という選択肢を加えて欲しいと望んでいます。劇場や美術館は刺激を受け、感動を覚えながら、同時に思索を巡らすことができる場所です。皆さんの内的な時間を豊かにする都市の施設として、劇場や美術館はあります。「行く習慣が無い」という方ほど、一度、訪れて欲しいと願っています。

 そんな願いを込めて、たちかわ創造舎が製作、立川シアタープロジェクトによる公演、子どもとおとながいっしょに楽しむ舞台vol.2『西遊記 ~悟空のぼうけん~』をご覧いただき、ご家族で、友人同士で、あるいはお一人で、どうぞ良い時間をお過ごしください。

 → 公演の詳細はこちら

vol.10 地域社会の活性化とは

2017年の夏がやってきました。酷暑というべき日々が続いていますが、夏はたちかわ創造舎が、子どもたちや近隣の方々、サイクリストたちで最も賑わう季節です。涼しい部屋とWi-Fi、アイスクリームやドリンクの自販機とシャワーが、皆さんのお越しをお待ちしております。

本格稼働から2年目を迎えた創造舎は、昨年度より発信力を増した施設として活動の場を増やしています。たとえば演劇事業は、立川市子ども未来センター、くにたち市民芸術小ホールで定期的に上演を行うようになったほか、環境フェアなどのイベント、富士見町児童館、西砂学習館、柴崎サマー学童保育所など立川市内の公共施設、武蔵野市の武蔵野市民会館や吉祥寺シアターなどに広げていっています。

たちかわ創造舎は各事業を通して「地域社会の活性化」に貢献することを目指しています。地域社会にもいくつかの層があって、たちかわ創造舎がある富士見町の活性化に始まり、立川市の活性化、多摩エリアの活性化、東京都の活性化と広がっていきますが、創造舎は富士見町から多摩エリアまでを視野に入れています。富士見町に目を向けた時と、多摩エリア全体に目を向けた時では、同じ演劇事業や自転車事業でも違うやり方や方向性で進めなければなりません。

それにしても、「地域社会の活性化」とは何でしょうか?住む人が増えることでしょうか、それとも商売がさかんになることでしょうか、訪れる人が増えることでしょうか。もちろん、そういう側面もあるのでしょうが、私の考える「地域社会の活性化」とは「活き活きとした人と人とのつながりが生まれること」に他なりません。それには「同じ場に立ち会い、同じ体験をして、感想を語り合うこと」が重要です。それぞれの地域社会のサイズや性質に合った、「場」と「体験」と「語り合い」をどうデザインするか、ディレクターとして最も心がけていることです。

もう一つ、「地域社会の活性化」を考えるときに、私が心がけているのは「すでに地域社会をサポートしている人をサポートする視点を持つ」ことです。支援する人を支援するとは言葉遊びのように感じるかもしれませんが、私はこのことを今の日本社会を支える生命線だと思っています。例えば役所の方、警察官など公務員の方、学校の先生や職員の方、児童施設の方、福祉施設の方、自治会の方、商工会議所の方など、地域社会を支える担い手をサポートすること。NPO法人(特定非営利活動法人)の本来の役割はここにあります。

幸いなことに、たちかわ創造舎には私たちを訪ねて、多くの人が相談に来てくれます。私たちは慈善団体ではないので、ボランティアで何かして欲しいという依頼はお受けできませんが、営利団体でもありません。予算の範囲内でできることは何か、どんなデザインの事業なら可能か、どんなサポートなら可能かを、相談に来てくれた方と一緒に考えています。それが、たちかわ創造舎の発信のスタートラインであり、地域社会の活性化に向けた一歩です。

夏以降も、そんな創造舎の事業が目白押しです。ぜひ、情報をチェックしていただければと思います。創造舎だけでなく、様々な場所で皆さんのお越しをお待ちしております。

vol.9 2016年度の終わりに

 

2016年度もいよいよ終わりに近づき、たちかわ創造舎が本格稼働して最初の年度が終わろうとしています。ほっと一息、と言いたいところですが、残す今年度の事業として、コミュニケーション・スクールの「おとなのための音読講座」(14日・21日)、放課後シアター『ブレーメンの音楽隊~グリム童話より~』があります。音読講座の講師と放課後シアターの台本・演出は私の担当ですので、まだまだ気が抜けません。音読講座は早々に定員に達し、予約を締め切りましたが、放課後シアターは予約不要ですので、ぜひお誘いあわせの上、ご来場ください。

たちかわ創造舎の2016年度は、初年度だから当たり前ですが「開拓」の一言でした。インキュベーション・センター事業、フィルムコミッション事業、サイクル・ステーション事業、交流等創出事業のそれぞれで、多くの企画が産声をあげ、集まった参加者の方から大きな反響を得ることができました。まさに【場】を開拓し、そこに人々が【集う】ことをがむしゃらに行った一年と言えます。

インキュベーション・センター事業では、ディレクターメッセージ vol.7「たちかわ創造舎一周年にあたって」でも書いた通り、シェア・オフィス・メンバー4団体ともに、一年目から立川市の文化に積極的にコミットし、成果を挙げてくれました。

特筆すべきは、年度の後半に行われた、シェア・オフィス・メンバーと創造舎の合同企画です。くにたち市民芸術小ホールでの合同ワークショップと『仮装朗読劇 アラビアンナイト』の上演、たまがわ・みらいパークまつりでの「えんげき広場」の開催。どちらも祝祭性の高い企画で、地域住民の方たちと演劇人が交流することで、場の熱量が上がる姿を随所で目撃しました。私は以前から、「市民とアーティストが出会う」という非日常性が、市民にとってもアーティストにとっても良い影響を及ぼし合うと思っていましたが、それを確信できた二つの「お祭り」でした。

たちかわ創造舎の経営を支えるフィルムコミッション事業では、撮影貸し出しが順調に増え、地元の方々が「またテレビに出てたねー」と嬉しそうに報告してくださると、こちらも嬉しくなります。地域の方たちにとってはこれも非日常と出会うことの一つなんだなと思います。「今日は何を撮ってるの?」と尋ねてくれる方も多いのですが、何を撮影しているのかは基本的にはシークレット(ごめんなさい)。でも時々、許可を得た撮影レポートを、たちかわ創造舎のFacebookに掲載していますので、気になる方はぜひチェックしてみてください。

フィルムコミッション事業は、撮影のために場所を貸すだけでなく、最新映像機材の体験会や映像ワークショップにも協力しています。先月行われた撮影監督による最高級の映像機材を使った映像ワークショップでは参加者の方々が昼食を取るのも忘れるほど、熱気あふれるワークショップになったようです。映像アーティストの方たちにとっても、創造舎は「創る」だけでなく「学ぶ」場になってきています。

プロフェッショナルによる「学びの場」として、サイクル・ステーション事業でも先月、「自転車乗りのカラダとココロのための連続講座」を開催しました。「料理」と「ヨガ」をテーマに第一線で活躍される方を講師にお迎えし、サイクリストにも一般の方にも役に立つ、興味深い講座が行われました。

今年度のサイクル・ステーション事業として行ったイベントは、来年度も引き続き開催されます。その中で、自転車に乗る楽しみが味わえる、多摩川沿いを散走する「たまライド」や、立川市内の観光スポットを自転車でゆっくり回遊する「たちポタ」は、参加者同士が交流する格好のイベントです。一緒に走って、おしゃべりしているうちに、自然と仲良くなっていきます。私もクロスバイクに乗っていますが、立川や多摩川は自転車で走るには本当にいい場所ですので、来年度はぜひ皆さんもご参加ください。一緒に走って、おしゃべりしましょう。

「創造」「学び」「交流」の場を開拓し、人々がその場に集まることを目指した、たちかわ創造舎の2016年度でしたが、2017年度はさらにそれを深め、広げていくことを目指します。そのために、これまでの「交流等創出事業」を「コミュニティ・デザイン事業」と名を変え、展開していくことにしました。

交流等創出事業は、主に演劇を通して「市民と市民」「市民とアーティスト」「アーティストと子どもたち」が交流する場を創造してきました。前述したシェア・オフィス・メンバーとの合同企画も「交流等創出事業」になりますし、放課後シアターや立川シアタープロジェクトもそうです。立川シアタープロジェクトとして12月23日24日に、たましんRISURUホール・大ホールで上演した、子どもとおとながいっしょに楽しむ舞台vol.1『音楽劇 アラビアンナイト』は、当初の予想をはるかに超える約1350名の方にお越しいただけました。これは立川市にとっては大きな事件と言っても、過言ではありません。

来年度のたちかわ創造舎は、「交流等創出事業」を文化を通したさらなるまちづくりの事業を提案・発信する「コミュニティ・デザイン事業」とし、主に以下のようなことを行っていきます。

1.芸術文化やサイクルスポーツで街を活性化する事業を企画・製作、たちかわ創造舎内外にて発信。
2.行政や公共団体、商業施設の文化事業に協力して、イベントやプロジェクトを企画・運営。
3.学校や教育機関を連携して、各世代に向けた「学び」の機会と「体験」の場を創出。

たちかわ創造舎内だけでなく、立川市や多摩エリアのあちこちで「創造」「学び」「交流」の場を生みだし、市民の皆さんとともに街をおもしろくデザインしていきたいと考えています。

vol.8 子どもとおとながいっしょに楽しむ舞台『音楽劇 アラビアンナイト』間もなく開幕

 

いよいよ今週末に、立川シアタープロジェクト実行委員会(立川市・立川市地域文化振興財団)による、子どもとおとなが一緒に楽しむ舞台vol.1『音楽劇 アラビアンナイト』の、たましんRISURUホールでの公演が迫ってきました。市、財団をはじめとする様々な方の協力を得て、お蔭さまで23日(金)の回は前売り予約分600席(大ホールの一階席のみ使用)が完売、当日券を残すのみとなりました。当日券は開演の1時間前、お昼の12時より販売予定です。(この日しか来られないという方、諦めないでください!)

24日(土)の回も、クリスマスイブの予定が決まったからか、ここにきて予約がどんどん伸びています。13時開演、上演時間約80分ですので、14時30分には劇場を出られます。その後、お買い物をしたり、パーティーに出かけたりするには良い時間ではないでしょうか。開場時間中にはロビーで簡単な工作のミニ・ワークショップもやっています。イブの予定が決まっていない方は、ぜひ劇場で過ごす楽しいひとときを候補に入れていただければと思います。

すでに2公演で1000名を超える予約をいただきました。正直、驚いております。動員目標は850名でした。チラシ45,000枚・ポスター200枚による広報、「アラビアンナイトの世界を知る連続レクチャー&ワークショップ」などの関連企画や、よみしばい『アラジンと魔法のランプ』や『アリババと40人の盗賊』といった事前イベントの実施など、さまざまな要因がありましょうが、やはり大きかったのは「立川で良い演劇を!」という関係者一同の熱意と、皆さんからの期待が合致したことにあると思っています。キャスト・スタッフ一同、こういう企画を待ってくださっていたのだなという期待をひしひしと感じ、身が引き締まる思いです。その期待に応えるべく、最終稽古、会場での仕込みとリハーサル、初日が開けるまで、ブラッシュアップにはげんでおります。そして、観劇を迷っている方、ぜひ、この記念すべき最初の試みを目撃していただけたら幸いです。

なお、稽古にあたっては、連携団体である「たまがわ・みらいパーク」に多大なるご協力をいただきました。深く感謝いたします。

子どもとおとなが一緒に楽しむ舞台vol.1『音楽劇 アラビアンナイト』、街がウキウキとした気分に彩られる祝祭の時期に観劇を通して、子どもたちにも大人の皆さんにも、演劇、劇場、文学、そして異文化に興味を持っていただき、そこからさまざまな対話が生まれたら、一アーティストとして、これにまさる歓びはありません。

vol.7 たちかわ創造舎一周年にあたって

 

 9月27日のオープンから早くも一年が過ぎ、今年度も半分が過ぎました。
 前回のディレクターメッセージより、ずいぶん間が空いてしまいましたことを、まずはお詫び申し上げます。お蔭さまで、たちかわ創造舎は6月より9月まで、スタッフ一同、怒涛と言っても良い、充実した日々を過ごしておりました。一周年を迎えて、ようやく一息をついたところです。
 オープン以来、特に今年度に入ってから、たちかわ創造舎の活動は、私たちが予測していたよりも早く、そして広く、展開していきました。次から次へとやってくるミッションを少ない人数でクリアしながら、少しずつですが、文化創造施設としての「たちかわ創造舎」の存在を、近隣の住民の方や立川市民の皆様に知っていただけている手ごたえを感じています。合わせて、舞台芸術関係、映像制作関係、サイクル関係と言った専門分野の方々から、私たちの三つの事業(インキュベーション・センター事業、フィルムコミッション事業、サイクル・ステーション事業)に熱い期待が寄せられていることも、強く感じております。

 今年度に入ってからの動きを改めて振り返ってみますと、我ながらその多彩さに驚きます。

 インキュベーション・センター事業としては、シェア・オフィス・メンバーの企画が次々と実現しました。すこやかクラブによる学校を探検型演劇の劇場に変えた『真夏のたちかわ怪奇クラブ』、風煉ダンスによる立川市子ども未来センターの芝生広場を劇場に変えた野外劇『スカラベ』、鮭スペアレによる多摩エリアの中高生との創作ワークショップ『中高生×シェイクスピア×音楽劇』など、舞台芸術を通じて「街をおもしろくする」活動を発信しています。そしてチョーク・アーティストのChalk2Uは、この秋から「ららぽーと立川立飛」にて講座を開催します。
 地域との交流事業として、プロジェクト・パートナーのTheatre Ortと6月からスタートした「放課後シアター」も、『ヴェニスの商人』『星の王子さま』『アラジンと魔法のランプ』『イワンのばか』と4作品を上演し、地域の方から愛される催しとなりつつあります。特に、大人が子どもに観劇をプレゼントする「あしながチケット」は、芸術を通じた社会包摂の試みとして注目されています。Theatre Ortは、たちかわ創造舎最寄りの小学校である新生小学校に、芸術家派遣事業として『注文の多い料理店』を各学年に向けて計6回上演するなどの活動も行っています。

 フィルムコミッション事業は、連続ドラマ『早子先生、結婚するって本当ですか?』、『でぶせん』、AKB48メンバーが出演する『CROW’S BLOOD』、スペシャルドラマ『模倣犯』など、大規模な撮影が入ることも増え、テレビなどでたちかわ創造舎を目にする機会も増えました。10月には初の映画撮影も予定されています。フィルムコミッション事業用の専用パンフレットも作成、使いやすく、メリットの多い学校スタジオとして、より積極的に今後もプロモーションしていきます。

 サイクル・ステーション事業では、スポーツサイクルが最短で上手になる『じてんしゃの学校』で、技能検定合格者に贈るオリジナルのピンバッヂを製作、参加者に喜ばれました。子どもたちに向けては、世界中で開催している「IMBA Take a Kid Mountain Biking Day」を、『たちかわ自転車キッズデイ』として多摩川河川敷で開催。たくさんの子どもたちが集まりました。先日は、サイクルサッカーとサイクルフィギュアのドイツジュニア選手団が来日、体育館でデモンストレーションを行い、立川市長も訪れ、喝采を送っていました。
 このように「サイクルスポーツ」を切り口に様々な企画を行うほか、奥多摩の流木を活かしたシャワールームとロッカールームの完成、セブンティーンアイスの自販機の導入、ギャラリーでは期間限定で自転車メーカーTREKのフォトギャラリーを開催するなど、サイクリストが立ち寄りやすい施設として設備を整えていきました。

 たちかわ創造舎の単独の事業だけでなく、立川市の主要な組織との協働での事業も増えています。立川市と公益財団法人立川市地域文化振興財団と立ち上げた「立川シアタープロジェクト」、立川商工会議所主催の「たちポタ(たちかわポタリング)」の企画運営、立川青年会議所主催の「シティプロモーション・ムービー」への協力、エキュート立川主催の「屋上シアター」の企画運営など、立川市全体がたちかわ創造舎の活動場所となりつつあります。今後も、いろいろなところ、いろいろな形で、「たちかわ創造舎」の名前やロゴマークをご覧になる機会が増えていくと思います。ぜひ、ご注目ください。

 明日からまた、秋から年末にかけて怒涛の日々が始まります。皆様に「たちかわ創造舎の活動は、なんだか刺激的で面白い」と思っていただけるようなアイデアを、多摩川のほとりのこの場所でスタッフ一同、頭を絞って形にしていく所存ですので、今後とも応援をよろしくお願いいたします。

vol.6 コミュニティ(共同体)の再生を促す演劇のチカラ

新しい年度の始まり、たちかわ創造舎も新しい顔ぶれが揃いました。昨年9月末からの半年間の試験的な運用が終わり、これからの5年間に向けての新しいスタートを切ることができました。
 今年度からの新たな動きとしては、多くの演劇事業が始まります。私の本職は舞台演出家なので、本領発揮といったところです。すでに5月3日の子どもの日には、立川駅前の商業施設「エキュート立川」と協力して、エキュート立川の屋上庭園で演劇を上演する「屋上シアター」を開催。僕の構成・演出で、Theatre Ort(シアター・オルト)による『エルマーのぼうけん』と『おしいれのぼうけん』を上演しました。上演は「よみきかせ」と「おしばい」を合わせた「よみしばい」という、どこの場所でも上演できるスタイルで行いました。いつもの駅前が、いつもとはちょっと違う「劇場空間」になったのを、50人を超えるお客さまに楽しんでいただけました。
 5月7日からは、演劇的手法を活かしたコミュニケーションの学校、「たちかわ・コミュニケーション・スクール」が開校しました。第一弾は英会話を演劇で学ぶ参加型シアターの「ぷれいご」。こちらは、立川市を拠点に海外でオリジナルの作品を発表するために活動する現代演劇ユニットMY COMPLEX(エムワイコンプレックス)が講師をつとめています。全8回の講座で、8回目には英語の台本を使った作品発表まで行います。女性ばかりですが、中学生から30代の方までが参加しています。

 他にも、今月28日に立川の街を自転車で散策する「たちポタ(たちかわポタリング・モニターツアー)」では、ツアーガイドを俳優がつとめ、各スポットを演劇的に紹介していくということを行います。自転車を使ったツアー演劇ですね。これは、立川の街のいたるところを「劇場空間」にしてしまおうという、壮大な野心の第一歩です。
 このように、たちかわ創造舎の演劇事業は、単に演劇を上演するだけではなく、商業や教育、観光など、さまざまな産業とコラボレーションする形で行うことが多いです。なぜ、演劇にそんなことが可能なのか、不思議に思う方も多いと思います。演劇の持つ力について、簡単ですがご説明します。
 誤解を恐れずに言うと、演劇には「コミュニティ(共同体)の再生」を促す力があります。その力とは「言葉によって心を通い合わせること」と「日常をひととき非日常に変えること」の二つです。一般的な言葉に置き換えると、前者を「コミュニケーション」、後者を「祝祭」と呼びます。
 コミュニケーションとは単なる「情報の伝達」ではなく「ことばや体を媒介に心を通い合わせていく」ことであり、それが支え合うことにつながっていきます。祝祭とは「普段とは違う空間で、普段とは違う人間関係で、普段とは違う時間を過ごす」ことで、見慣れたはずの風景や慣れきってしまった人間関係の新たな魅力を発見することにつながっていきます。
 同時に、コミュニケーションも祝祭も限定的なものであり、万能ではないことから、私たちは日常を生きていかざるを得ないこと、他者と心が通わないことが多いことも知っていきます。それもまたコミュニティを生きぬく知恵につながっていきます。

 今、地方都市の産業は、コミュニティの再生もしくは再発見と不可分であると言えます。それゆえに、演劇がさまざまな産業と結びつくことができる可能性が高いと、私は考えています。また、そうするためには、どんな現場でも演劇の持つ力を発揮できるように、私たちが演劇の技術や教養を磨いておく必要があります。
 演劇と産業をどう出会わせるか、今後もいろいろな形で試行錯誤を重ねていきます。好奇心とあたたかい目線を向けていただけると幸いです。ぜひ、皆さんもその試みに参加してください。

vol.5 知的好奇心と遊び心のためのディレクターズ・サロン

 

3月26日(土)にディレクターズ・サロンvol.1「廃校から廃校へ 立川と奥多摩がつながる未来」が無事、開催されました。ディレクターズ・サロンは、僕が「いま、市民と一緒に考えたいテーマ」を「いま、話を聞きたい専門家のゲスト」を招いて交流する、知的好奇心と遊び心のためのプログラムです。ゲストが影響を受けた本を俳優がリーディングするブック・パフォーマンス、その場にいる人全員の思考を楽しく深く刺激することを目指したクロス・トーク、そして、参加者の皆さん、ゲスト、シェア・オフィス・メンバー、創造舎スタッフが一緒に飲み食いをしながら語り合う交流会、その三つが1セットになったのが、ディレクターズ・サロンです。

 vol.1のゲストは、菅原和利さん(株式会社東京・森と市庭 営業部長)と藤原祥乃さん(株式会社まちづくり立川 事務局長)。東京・森と市庭は、たちかわ創造舎と同じく廃校を再生した「奥多摩フィールド(旧・小河内小学校)」を運営しているという共通点あるのに加え、今、たちかわ創造舎のロッカールームとシャワーブースを奥多摩の木で作るプロジェクトを一緒に進めています。さらに偶然にも、「立川という都市と森の中間地点で、自由で新しい働き方の場を提供したい」「東京の大切な資源でもある奥多摩の森を長く守っていきたい」という思いで、株式会社まちづくり立川と共同で奥多摩への玄関口である立川駅前に「森のシェアオフィスKODACHI」の開設を進めています。
 たちかわ創造舎と東京・森と市庭とまちづくり立川が、まさに運命の出会いのようにつながったことで生まれたのが今回の企画です。

 ブック・パフォーマンスでは、藤原祥乃さんが選んだ『少年H』(作:妹尾河童)と、菅原和利さんが選んだ『思考するカンパニー』(作:熊野英介)を、僕が構成・演出、プロジェクト・パートナーズのTheatre Ort の俳優、村上哲也と平佐喜子が演劇的に紹介。戦前の昭和の子どもたちの様子を生き生きと描いた『少年H』と、日本の近代を考察し、これからの仕事や会社のあり方について提言する『思考するカンパニー』、近代から始まり戦前、戦後、今にいたる日本について思いをはせる構成となりました。
 「なぜ、その本を選んだのか」から始まったクロス・トークは、「東京の森を再生するには」「都市と森が結びつくことがどんな可能性が広がるか」「単に物を作るのではなく、価値を作ることの重要性」にまで話が広がり、参加者の皆さんを大いに刺激できたようです。
 トークの後の、屋上での交流会は、春三月とはいえまだまだ風が冷たかったものの、皆で奥多摩のジビエ(鹿肉)や、立川の地元野菜に舌鼓を打ちながら、そこかしこで談笑の広がる楽しい時間となりました。交流会では、準備の段階からシェア・オフィス・メンバーが強力サポートをしてくれ、「チームたちかわ創造舎」としての一体感が強まったような気がします。

 参加者の方からは「すべてが豊かな時間だった」「五感が刺激された」「短い時間に内容がギッシリつまってた」など、さまざまなお褒めの言葉をいただきました。ぜひ、今後もディレクターズ・サロンを定期的に続け、知的好奇心と遊び心が出会い交流する場を、たちかわ創造舎にてプロデュースしていきたいと考えています。次はさらに多くの皆さんの参加をお待ちしています!

vol.4 シェア・オフィス・メンバーとプロジェクト・パートナーズへの期待

 2016年からこのディレクターズメッセージは月に一回、お届けします。

 オープン時より募集してきましたシェア・オフィス・メンバーですが、私とチーフ・マネージャーの陽が必ず立ち会い進めてきた、一次面談、企画書の提出、二次面談という慎重かつ厳正な手続きをへまして、このたび4室すべて入居者が内定しました。
 すでに活動を開始しているメンバーは、演劇集団の「風煉ダンス furen-dance」、パフォーマンス・カンパニーの「すこやかクラブ Sukoyaka club」、イラストレーター&チョークアーティストの「Chalk2U(チョークトゥユー)」です。もう1室は夏ごろ入居予定です。
 またプロジェクト・パートナーズとして、サイエンスの恐竜くん、自転車の東京ヴェントスに加えて、新たに演劇団体の「MY COMPLEX(エムワイ・コンプレックス)」と「Theatre Ort(シアター・オルト)」が加わりました。来年度からスタートするコミュニケーション・スクール事業やカフェ・シアター事業の企画・運営に加わります。

 「シェア・オフィス・メンバーとプロジェクト・パートナーズってどう違うの?」の質問にお答えすると、メンバーが企画・運営する事業をたちかわ創造舎が協力するのがシェア・オフィス・メンバーで、たちかわ創造舎が企画・運営する事業に協力してもらうのがプロジェクト・パートナーとなります。
 今後、たちかわ創造舎における芸術文化活動への支援は、稽古場や作業場として場所を貸し出しするスペース利用ではなく、シェア・オフィス・メンバーやプロジェクト・パートナーズによる地域住民や立川市民に向けての企画を共に実現することへ移行します。
 なお、撮影でのご利用や、たちかわ創造舎を共催とするイベントへの貸し出しはこれまで通り行っていきますので、お問合せ下さい。

 シェア・オフィス・メンバーへの活動支援は、たちかわ創造舎の事業の三本柱の一つ、「インキュベーション・センター事業」にカテゴライズされます。インキュベーションは起業・創業支援の意ですが、文化におけるインキュベーションとは「人を育てること」に他なりません。三本柱のうち、インキュベーション・センター事業は「人」、フィルムコミッション事業は「収益」、サイクル・ステーション事業は「アクセス」と、施設運営のための「人・収益・アクセス」を相乗効果で伸ばしていけるのが、たちかわ創造舎の運営の特色といえます。
 そのうえで、私が、シェア・オフィス・メンバーやプロジェクト・パートナーズに、ぜひ地域や市民の方へ提供して欲しいと望んでいるのは「学び」と「祝祭」です。メンバーやパートナーが、どんな発想と知恵を発揮して、たちかわ創造舎および立川市、多摩エリアを「学び」と「祝祭」で彩ってくれるのか、皆さんもご期待ください。

 

 なお、シェア・オフィス・メンバーのプロフィールと活動予定、プロジェクト・パートナーズのプロフィールは来月ウェブにてご紹介いたします。

2016年2月29日

vol.3 まちづくり=街を演出することの思いやりと勇気

 2016年が始まり、たちかわ創造舎内も来年度に向けて準備が活発になってきています。昨年9月からの半年の試運転をへて、4月からの1年は立川市および多摩エリアへの発信をより強めていく飛躍の年度にしたいと考えています。

 さて、私が立川市と関わるようになってよく出会うようになった言葉に、「まちづくり」があります。ここでいう「まちづくり」とは、もちろん建物や道路を作ることではありません。「どんな街が暮らしやすいのか」の理念の共有と、実現への努力のことです。理念というと難しく感じますが、「考え方」と言い換えてもいいです。また、「まちづくり」と言ってもそれは新たな街を作ることではありません。今ある街の姿を少しだけ変えることになります。
 つまり、「まちづくり」とは、多くの人に街への考え方を変えてもらうことによって実現するものと言えます。

 人と人との付き合い方の中で、考え方を変えてもらうことほど難しいことはありません。それは相手に今までの常識だったり、やり方だったりを疑えという要求になるからです。疑うことには痛みが伴います。相手の痛みに無頓着にただ変えろと言っても、うまくいくはずがありません。「まちづくり」の難しさはここにあると私は感じています。

 では痛みを思いやれればいいのかというと、そう単純でもなく、思いやった上で「それでも変えてください」と言うのは、なかなか大変です。相手の痛みをふまえて、なお相手を説得しようとするには勇気が必要です。
 私の本職は舞台演出家ですが、俳優に考え方を変えて欲しいと要求することはよくあります。それを舞台の世界ではダメ出しと呼ぶのですが、ダメ出しされることに大きな痛みを感じる俳優も少なくありません。それでも、演出家は勇気をもって俳優への要求を行わなければいけませんし、また俳優もその痛みを乗り越えて変わろうとしなければなりません。そうしなければ良い創作ができないからです。しかし、そうした演出家と俳優の関係を可能にするには、互いに言葉を尽くす必要があります。
 「まちづくり」という言葉に出会い、実際いくつかの試みに触れたとき、「まちづくり」は演劇作品の創作に似ていると思いました。

 冒頭に書きましたように、たちかわ創造舎が来年度から立川市や多摩エリアに活動を発信していくということは、芸術やスポーツによる「まちづくり」に参加していくことになります。それは、つまり「街を演出する」ということです。勇気をもってそのことに取組み、言葉を尽くしていきたいと考えています。
 2016年も、たちかわ創造舎をよろしくお願いします。

2016年1月15日

vol.2 大きな容れ物としてのたちかわ創造舎

 9月27日に、たちかわ創造舎がオープンしてから2か月が経とうとしています。その間に、サイクル・ステーション事業として『サンセット・シクロクロス』『TAMAGAWA水の道・らいど2015』を共催。Tachikawa Cyclig SchoolのBASICでは『じてんしゃの学校』をLesson2まで終え、自転車の楽しみ方を提案するFUNでは『湧水をたずね、野点であそぶ』を行いました。
 スポーツサイクルの初心者からベテランまで、参加者の方の評価や満足度が高く、自転車ユーザーや業界からの注目と期待が高まっているのを実感しています。多摩川サイクリングロード沿いに誕生した、スポーツサイクルの安全向上とマナーアップの学びの場、および情報発信の基地として上々の滑り出しと言えます。

 学校の施設を撮影に貸し出すフィルムコミッション事業も、ほとんど毎日のように問合せやロケハンが入り、ドラマやCM、ミュージックビデオ、写真の撮影などに使われています。こちらは近隣の住民の皆さんの協力を得ながら、弾力的な運営を行っています。今後も、たちかわ創造舎の財政基盤を支える重要な事業として展開していきます。
 芸術文化による交流事業としては、Theatre Ortによる演劇公演『想稿・銀河鉄道の夜』や、よみしばい『よだかの星』をたまがわ・みらいパークまつりで上演しました。どちらも予想を上回る観客の方に集まっていただき、作品の評判も良く、「今後も定期的に上演してほしい」の声も多く聞こえています。
 また、創造舎近くの新生小学校で学芸会のための演劇ワークショップを3年生以外の学年に、先生方と協働して行いました。おかげで子ども達に顔を覚えられ、道で出会えば遠くから呼ばれ、放課後になると何人もの子ども達が遊びに来てくれるようになりました。彼らにとっての新たな居場所になっているのなら幸いです。
 そして、これからが楽しみな事業としては、インキュベーション・センター事業であるシェア・オフィス・メンバーも近日中に決定します。ジャンルの違うメンバーが、創造舎内で活動を始めます。メンバーが企画したワークショップやイベントも今後、開催予定です。

 こう書いていくだけで、この「たちかわ創造舎」という施設が、いかに多岐にわたる活動を行っているのかを実感します。私は「たちかわ創造舎」を大きな容れ物にしていきたいと考えています。いろいろな形のものを入れることができ、なお余裕のあるような大きな大きな容れ物。
 大きくない容れ物にたくさん物を入れようとすると、同じような形のものをぎちぎちに詰めることになります。多様性や間に余裕を持たせることは「ムダ」を発生させることになります。そこからは、「寛容」も「許容」も「包容」も失われていきます。逆に言うと、「寛容」と「許容」と「包容」を育んでいくことが、大きな容れ物としての場を守り育てることになります。
 そうした場を広げていくことが、人々の集まる広場を作ることであり、それを社会にまで広げると社会包摂へとつながっていきます。

 たちかわ創造舎は、わずか2か月の間に様々な分野の方が集まる施設となってきました。もともと、多摩川小学校やたまがわ・みらいパークとして、この場所を愛してくださった方々に加えて、新たな人々がこれからも続々と、「学び」と「交流」と「創造」を求めて集まってくることでしょう。そうした人々とともに各事業を通して、寛容や許容や包容によって、たちかわ創造舎を大きな容れ物にするべく、日々の活動に勤しんでまいります。

2015年11月30日

vol.1 開かれた対話の場・プロフェッショナルによる支援・地域課題の解決

2012年9月から準備を進めてきた「たちかわ創造舎」が、いよいよオープンします。
この3年の間に、私たちは多くの立川市民の方や、立川を拠点に活動をしている方にヒアリングを行い、立川市や多摩エリアの文化状況と地域課題について、取材と熟考を重ねてきました。並行して、行政および地域住民の方々を代表する「たまがわ・みらいパーク」との三者協議を20回近くに渡って行い、運営にまつわるさまざまなことを決めていきました。まずはそうした、これまでに出会い、言葉を交わしてきた皆様に感謝申し上げます。

私は、この「たちかわ創造舎」のチーフ・ディレクターに就任してから、今の日本の状況とも合わせ、ますます「開かれた対話の場」を作っていくことの意義を強く感じています。かつてないほど、コミュニケーション力の重要性が叫ばれていますが、実態はどうでしょうか。多数の空気に合わせることがコミュニケーションのうまさになってはいないでしょうか。コミュニケーションとは「対話」による「説得」であり、そして、その結果としての「連帯」もしくは「許容」です。それは、自分と考え方や生き方の違う人と一緒に暮らしていくための知恵と技術です。
開かれた対話の場を作ることが、人々が共に生き、共に暮らすための知恵と技術を学ぶ場を作ることになります。その知恵と技術を「文化」と呼びます。私たちは「たちかわ創造舎」を、対話から文化が生まれる場にしていくために尽力していきます。

また、これから、たちかわ創造舎には、多くのアーティストやアスリート、ベテランから駆け出しに至るまで、様々な文化の担い手が集まってくることでしょう。そこに年齢や国籍の制限はありません。たちかわ創造舎ではさまざまな事業を展開していきますが、そのすべてに「プロフェッショナルによる支援」という要素が入ります。専門的な知識や体験を得たい人と、自身の専門性を発揮したい人の双方が出会う場にしていきます。
私も週に4日は「たちかわ創造舎」にいます。演劇についてもっと知りたい中高生や学校の先生、演劇を続けることに悩んでいる学生や若者は、訪ねてきてください。できる限り相談に乗ります。

もう一つ、これから活動を行っていく上で、廃校を利用したプロジェクトは今や日本各地で行われていますが、それぞれの地域が抱えている課題に合わせたプロジェクトを展開できるかが重要です。団地の活性化、サイクリングロードの安全性と至便性の向上、立川駅南側の文化拠点のネットワーク化などが、たちかわ創造舎のある地域の重要な課題です。こうした「地域課題の解決」に向けた事業を提案していくことも、たちかわ創造舎のミッションになります。

ようやく「たちかわ創造舎」が産声をあげます。すでに立川市内のみならず多くの方から期待の声が寄せられています。そうした声に力を得つつも、拙速にならぬよう一歩一歩、これまでしてきたように、取材と熟考、対話を重ねながら、スタッフ、プロジェクト・パートナー、シェア・オフィス・メンバー、利用団体の方々、そして皆様と歩んでいきたいと考えています。オープンした「たちかわ創造舎」のこれからにご期待ください。

2015年9月24日